この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 代表取締役社長
依田 光弘
思入れのあるジュエリー。地金だけのマリッジリングやネームペンダントなど宝石の入っていないジュエリーにも思い入れはあるものです。しかし、地金だけのジュエリーはそのままの形を活かしてリメイクすることはできても、全く形の異なる形状にすることは極めて難しいのです。
1,地金の形を変えるには溶かさなくてはならず、同一のものであるということの確認ができない。 2,通常ジュエリーとして使用する地金は真空状態で精製するため気泡などによる隙間ができにくく耐久性の高い地金となるが、お客様がお持ち込みの地金を1つ1つ溶かす場合は大気中で行うため空気が入り込み弱い地金となってしまう。 3,溶かした地金を叩いて、伸ばして形を成形しながらいくつものパーツに分けて製作するためには高い加工技術と経験が必要となり、さらに製作時間も長くなってしまう。 主にこの3つのポイントによりジュエリーのリフォームにおいては地金はあくまで下取りとして扱い、計算上金額から引き算することしかできません。 しかし、実は夢仕立では創業当時からお客様の地金を使用したリフォームを行っているのです。
元の地金を再利用するためには、まずその地金を部位ごとに分割していく必要があります。 さらに均一に分割した地金をなるべく立方体に近い形にするため、大きさを均一に揃えながら分割します。 このようにすることにより空気が入り込む隙間をできる限り減らすことができるので、耐久性のある金属に仕上げることができます。 また、その後の鍛金仕上げの際に予定通りの大きさに整えやすくなります。
溶かした地金の塊は小さなるつぼに合わせた形、コロンとした丸い形になります。 この丸い地金をエンマという工具で挟みこみながら叩いていきます。 鍛金するときは四方からハンマーで鍛えていきますので、四角柱のような形状になります。 この四角柱状の棒材を目的の形状にしていきます。
目的のデザインを作るためにどのようなパーツを作るか設計します。 職人は頭の中で設計をしますので、職人が行っている仕事は一見すると何を作っているのかわかりません。 まずは、四角柱状になった地金を目的のパーツの形状に合わせてローラーで轢いていきます。 例えばティファニー型の石座を作る場合は薄い板状に伸ばした地金を丸く切り取り、専用の工具で丸みをつけて爪を作っていきます。 パイプ型の場合はもっと薄く伸ばした板を必要な円周の分だけ切り取り、丸めてロー付け。さらに下部の支えを付けて、最後に爪となる線材をロー付けします。 また板状にしたり、線材を作ったり、腕となる太めの棒を作ったり、ほとんどの素材はエンマと工具で整える作業で製作することができます。
形を整えられたパーツはそれぞれ所定の位置に整然と並べられ、仮のロー付けで固定されます。 この工程では仮のロー付けですので、すぐに取ったり場所の微調整をしたりという作業が可能です。 ここでジュエリーのアウトラインを完成させます。
ジュエリーのアウトラインが決まったら本格的なロー付けをします。 ロー付けを行う際には接合部分の荒い断面を鏡面のように仕上げていきます。 外からは見えない部分ですが、この部分を綺麗に磨き上げることにより接合部分の痕が見えにくくなり、何より空気が入り込む隙間がなくなるため耐久性が格段に上がります。 このロー付け作業は勉強すれば誰でもわりと簡単にできる加工ですが、綺麗に仕上げたり耐久性を出したりするようなロー付けは経験を積んだセンスの良い一流の職人とそうでない職人とでは、かなり差が出ます。 綺麗にロー付けを行った後は仕上げに入ります。 指なじみを作ったり、デザイン上のアンバランスやシンメトリーを整えながら削り込みの作業を行っていきます。 人の目は意外に正確に物体を捕らえますので、少しでもバランスが悪かったり左右対称ではなかったりすると気になってしまいます。 特に思い入れのあるお品物の多いリフォームやオーダーメイドの製作においてはお客様がそのジュエリーを凝視することがおおく、また私たちもそのことを想定しますので気を使いながら形状を整えていきます。
綺麗に形を整えた後、研磨作業を行います。 この研磨作業を行うことで地金が削れていきますが、そのことも計算に入れながら形を整える作業を行っていますので無駄はありません。 ひたすら鏡面状に仕上げていき、たまに手作業でヘラがけをして地金の歪みも整えていきます。
研磨を行った後で行うのが、石留め作業です。 石留めは最も気を使う作業です。 少しの力の加減で石が割れてしまったり、曲がって止まったりしてしまします。 そのバランスを見極めながら、爪先が石にピッタリとくっつくように石留めを行います。 しかし決して石に力は加えません。 この微妙な加減が命の石留め作業はベテランの職人でなければ行うことのできない、難易度の高い作業です。 簡単に留めることはできますが一流の職人が留めた宝石は当然真っ直ぐに留まって、しかも宝石も外れ難いように留まっています。
石留めが終わったら爪先の研磨に取り掛かります。 爪先にバリが出ていたりザラザラしていると洋服に引っかかってしまったり、触れた時に痛い思いをしてしまう可能性があります。 ではなぜ石留めを行ってから全体的な「研磨作業」を行わないのでしょうか。 これはなるべく宝石に負担をかけないようにするためです。 もし宝石が留まった状態のまま研磨をしてしまうと宝石にダメージを与えてしまうかもしれないからです。 なるべく宝石にはダメージを与えたくないので、あえて仕上げを2段階にします。 そうすることにより石留め後の研磨作業は爪先のみで良くなり、かなり軽い仕上げしか行わないため宝石にもダメージが残りにくくなります。 時間はかかりますが、この2段階の工程を経ることにより細かく検査することもできますので、製作における利点も多いと私たちは考えております。
最後に研磨剤や埃などを落とすために専用の洗浄をします。 硬度の高い宝石の場合は強力な超音波洗浄機を使用しますが、硬度の低い石や有機宝石、トルコ石などを洗浄する場合は専用の洗浄方法にて洗います。 宝石の性質によって使用できる洗浄液や水分、機材がありますのでそれらを使い分けて洗浄をしていきます。
ここまでの行程でやっと完成です。 後は 「商品管理検品者」 「本部検品者」 「売り場検品者」 「担当」 の4つの検品を経て初めて加工の合格ラインを通過します。 この4つの検品のうち、1回でも引っかかると仕上げ直しや場合によっては作り直しを行うこともあります。 「お客様には私たちが考え得る最高の状態でご納品をしたい」という思いから、多少時間はかかりますが最高のものづくりを心がけて作業を行っております。 リフォームもオーダーメイドも、2つと無いオリジナルのお客様だけのお品物です。 全てのお品物に100%全力を注ぎ、取り組んでおります。 どうぞご相談だけでも結構ですので、ジュエリーのことはお気軽に夢仕立にご相談くださいませ。
この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 代表取締役社長
依田 光弘