この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 代表取締役社長
依田 光弘
大切なジュエリーは、実績豊富で安心できるプロにお任せを
梨本宮さま下賜のジュエリーの修復は失敗の許されない非常に難しいの案件ですが、弊社では今までにその様なご相談を数多く承って参りました。1978年創業以来、年間約10000件以上ものジュエリーの修理、リフォーム、オーダーメイドの加工実績があり、日本の宝飾品工房で唯一の「英国宝石学協会特別公認企業」です。ジュエリーのお悩み、ご相談は実績豊富な弊社にお任せください。
守正(もりまさ)王の長女方子女王は李氏朝鮮最後の皇太子イ・ウン殿下と結婚し日本、朝鮮の架け橋となったことで11月24日フジTV放映「虹を架ける王妃」でも紹介されました。 梨本宮守正王は若い頃フランスに留学されていたことがあり、今回修復を依頼された物は当時フランスから贈られたと見られる逸品です。
1:天然真珠がちりばめられたブローチ。裏面はロケットになっておりました。フィレンツェの文字が入っています。当初の状態はさほど痛んではありませんでしたが、金が変色しており、洗浄で汚れや変色を除去することが最大の課題となりました。 真珠がかなりしっかり固定されており、真珠をはずすには危険が伴うためはずさずに作業せざるを得ませんでした。天然真珠ですので、洗浄には化学薬品や強い洗剤が使えません。 まず最初に天然真珠をロー引きし、万が一にもダメージを負わない様にしました。
2:次に天然素材100%の洗浄剤(洗剤ではありません)を水に溶き、狼毛のブラシでゆっくりとゆっくりと時間をかけ掃除をしました。最後は木べらで細かなところを時間をかけてゆっくりとこすります。 3:その後、電解で酸化被膜を除去しました。 4:最後にロー引きを除去して完成致しました この間真珠の具合などを慎重に見ながら、約1.5ヶ月かけて修復致しました。
細部に現在では見られない細密な作りが施されており、修復には困難を要しますが、当社にご下命いただけたことは名誉であり、深く感謝し、謹んで修復をお受けさせていただくことになりました。 今回は2番目に作業開始致しました先にご案内致しましたフランス陸軍士官学校礼装用ブローチ(裏面にプリンス梨本の刻印)の修復の経緯を差し支えない範囲で当初の状況、途中経過、完成とその課程をお話しさせて頂きます。 お預かり致しましたお品ものは鍛造により造られたフランス陸軍士官学校礼装様ブローチです。表面には、フランスのシンボルマークの一つである「雄鶏」とESG (Ecole Supe´rieure de Guerre サンシール陸軍士官学校の略号)が入っています。
当初の状態は左の写真の通りです。 礼装様にかなりご使用になったようで、キズが全面に付いておりました。又、表面の羽の骨格の部分は一部削られておりました。表面下部にはなにやら刻印がありますが判別不可能な状態です。 裏面には大佐、プリンス梨本、1907-1909等 当時のフランスから贈られたであろうと思われるこの礼装用ブローチの背景が刻印されています。ピンは上方に引き抜くタイプで、留め具部分はかなりしっかりしております。金属の内容がはっきりしませんでしたので、初回の天然真珠ブローチ同様、天然特殊洗浄剤での洗浄と、へらによるキズの除去、を主体に作業を行いました。
さほど痛んではありませんでしたが、金が変色しており、洗浄で汚れや変色を除去することが最大の課題となりました。 作業後の写真です。
ビクトリア調の、原石ダイアとオールドカットダイアと天然真珠のブローチです。 ダイヤモンドを良く見てみると、ダイヤモンドの原石そのままをセットしたものや、一部に手を加えたもの(エイトカット、シングルカットなど)が多く見られます。特に小さなダイヤモンドに多く見られます。その反面、センターの大きなダイヤモンドはブリリアントカットが施されていますが、カットのバランスは現在のものとはかなり異なっております。いわゆるオールドブリリアントカットと思われます。
幸いなことにホールマークが打たれており、ホールマークの表からこのすばらしいブローチを読み解くと、「 Birmingham の分析所の検印、錨のマークと、年代の刻印$」があることから、バーミンガムアッセイオフィス(分析所)で刻印された1881年製の金製品ではないかと思われます。
梨本宮様は、サンシール海軍士官学校に留学されており、先ほどご紹介させていただいた「フランス陸軍士官学校(サンシール陸軍士官学校)礼装用ブローチ」には「プリンス梨本、1907-1909等」の刻印があることなどから推測すると、この前後にイギリスを訪問され、イギリスの皇室関係者から贈呈されたものではないかと思われます。 今回の修復は全体に汚れを落とし、脱落したダイヤモンドをセットし直すことにあります。
まず、石をはずさないように、慎重に汚れを落としました。 金性はホールマークから金であることは判明いたしましたが、純度はよくわかりませんでしたので火を使うことを避けました。汚れはこれで取れました。
次に脱落したダイヤモンドのセットですがこれがなかなか大変です。何しろアンティークです。地金も酸化しており強度がありません。脱落した部分の爪を詳細に調べ、その爪に最小限の負荷で留まるダイヤモンド原石を選定し、留めることにいたしました。インドのダイヤモンド業者に依頼をして、ダイヤモンド原石、エイトカット、オールドブリリアントカット、等を多数用意し、その中で最適なものを選定し石留めいたしました。 大変よく出来たブローチです。ピンを留めた後脱落しないように、裏側のストッパーを起して押さえる構造になっています。ストッパーも王冠のデザインになっており、皇室関係のご注文を思わせます。 修復期間は約六ヶ月です。
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夢仕立工房 代表取締役社長
依田 光弘