この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
日本宝石協会理事
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
依田 宇弘
タンザナイトは、アフリカの夜空を思わせるような深い青色が特徴です。その美しい輝きは、見る人を魅了し、心を穏やかにします。 キリマンジャロの夕焼け色をイメージさせる宝石、タンザナイト。12月の誕生石に選ばれたタンザナイトには、どのような歴史があるのでしょうか。こちらでは、タンザナイトの名前の意味や美しい色の特質から、ジュエリーとしての魅力や価値などについてをお伝えしていきます。
タンザナイトの石言葉は、「希望」「神秘」「高貴」「知性」「冷静」。この宝石は冷静な判断力を備え、精神的な強さをもたらすと言われています。アフリカでは不幸を脱する石として重要視され、マサイ族では新生児への贈り物としても知られています。 タンザナイトは、角度によって色の濃さが変わる特徴から、「冷静」「神秘」「高貴」などの宝石言葉が付けられています。冷静な判断力が欲しい方や、知性や落ち着いた雰囲気を表すサポートが欲しい方にもぴったりです。 石言葉や宝石言葉は、宝石の特性や歴史に基づき選ばれ、心理学的な研究に応用されています。これを利用して自己管理や印象戦略に活かすことができます。
タンザナイトは、鉱物ゾイサイトの一種です。タンザナイトが持つ特質から産地、美しい青色についてなど、宝石としての魅力をこちらでご紹介していきます。
タンザナイトは、鉱物ゾイサイト(灰簾石/ゆう簾石)の一種です。数多いゾイサイトの鉱物の中で、独特の美しい群青色を発色するブルーゾイサイトをタンザナイトと呼んでいます。サファイアに似た青色は、パナジウムに起因するものです。 ケイ塩酸鉱物であるゾイサイトには多くの鉱物が属していますが、微量の不純物を含有することで、多彩な色に変化するからです。ゾイサイトはパナジウムを含むと青いタンザナイトとなり、マンガンを含むとピンクや赤を発色するチューライトになります。稀にルビーやホルンブレンドをインクルージョンとして内包すると、緑色をした塊状の原石となります。
タンザナイトは、強い多色性を持つという特徴があります。見る角度によって紫や青から、ダークな灰色に見えるのです。また、二色性という特質も持ち、自然光の下では青色に、白熱灯の下では紫味の増した色合いに見えます。 多色性や二色性を持つタンザナイトですが、はっきりとした多色性を見せ、それぞれの色は濃く出ているほど高い価値が付けられます。 タンザナイトはモース硬度が6.5と比較的軟らかく、一定方向に割れるへき開という性質を持ちます。そのため衝撃に弱く、もろく傷つきやすい宝石です。
タンザナイトが最初に発見されたのは、東アフリカのタンザニアでした。キリマンジャロの麓にあるメレラニ鉱山という土地で、現地の住民によって偶然発見されたといいます。その後採掘作業が発展し、ティファニーの社長によって「タンザナイト」と命名されました。鉱物名はブルーゾイサイトですが、産地のタンザニアにちなんだ「タンザナイト」という名前でティファニー社から売り出され、多色性を持つ神秘的な宝石として人気が急騰したのです。 タンザニアで産出したものだけをタンザナイトと呼びますが、タンザニア以外の土地でもブルーゾイサイトが産出されています。産地の鑑別をすることは難しく、ほかの土地で産出したものも、タンザナイトとして流通している場合があるようです。
タンザナイトの結晶はインクルージョンが少なく、透明感が高いのが特徴的です。色が濃いほど評価が高くなりますが、ジェムクォリティで濃厚な青色をしたものが見つかるのは非常にまれです。 原石のほとんどが青味を帯びた赤褐色をしているため、加熱処理を施して色をエンハンスするのが一般的です。原石に高熱を加えることでパナジウムを安定させ、美しい群青色を発色させています。
タンザナイトは、キリマンジャロの夕焼け色をイメージさせる宝石として知られています。ほかにも、多色性という特質を持つことや、ティファニーが名付け親であることでも有名です。12月の誕生石の一つにも選ばれており、神秘的なイメージのある宝石です。このような、タンザナイトのイメージについて詳しく知ってみましょう。
タンザナイトは、青~紫色が混ざり合った、独特の美しい色合いをした宝石です。強い多色性を持つことから、見る角度によって青色や紫色の色相を楽しめるのが魅力です。太陽光の下では透明感のある群青色をしており、白熱灯の下では妖艶な紫色に変化するものもあります。 さらに、一つの結晶の中に2色を示す「バイカラータンザナイト」も存在し、青や緑、赤、黄色などさまざまなバイカラーを発色します。2色の色相はさまざまで、全く同じバイカラーを見せる結晶は存在しません。こういったことから、世界にたったひとつの個性的なバイカラータンザナイトとして、コレクターも注目しているようです。
タンザナイトの美しい青紫色は、産地国タンザナイトの近くにある、キリマンジャロの夕焼けの色に似ているといわれています。このことから、ティファニーの社長は新種として発見されたこの宝石を、産地のタンザニアにちなんで「タンザナイト」と名付けました。タンザナイトの青紫色がキリマンジャロの夕焼け色をイメージさせるというのも、理由の一つだと語られています。 独特の群青色をしたタンザナイトは、ティファニーによって大々的に世界中にその存在が知られることになりました。そのため、タンザナイトといえばティファニーが名付け親であるという実話が必ず語られます。高級宝石商のティファニーは、タンザナイトを語るうえで欠かせない大切な存在となっているのです。
タンザナイトは、ターコイズとジルコンに並ぶ、12月の誕生石に選定(米国GIA)されています。 タンザナイトの宝石言葉は「神秘」「冷静」「誇り高い」などです。気持ちを落ち着かせて正しい判断力を与え、成功へと導いてくれる石だと信じられてきました。
見る角度や光源によって色が変わるタンザナイトは、神秘的な魅力にあふれた宝石です。クールな青紫色の輝きは、ジュエリーとして着用することで、エレガントかつ高貴な雰囲気を高めてくれます。
タンザナイトは、比較的新しく発見された宝石です。ティファニー社によって命名され、世界中に知られることになったタンザナイトの歴史を、こちらで簡単に辿ってみましょう。
タンザナイトが発見されたのは、1967年でした。宝石としては比較的新しいものとして知られています。東アフリカの国タンザニアのアルーシャ地域にあるメレラニ鉱山で、現地の部族民族が青い結晶の塊を発見したのが始まりでした。この時マサイ部族民が見つけたのは、たまたま地上に出ていた青い塊上の結晶だったといいます。 ちょうどこの頃、宝石探鉱者のマニュエル・ド・スーザーという人物が、この土地でルビーの原石を探し求めていました。マサイ部族民はスーザー氏に、発見した青い結晶のことを伝えます。透明度が高く美しい青色の結晶を見たスーザー氏は、サファイアの鉱床を発見したものだと思い、さっそくこの土地での採掘権を取得しました。 メレラニ鉱山での採掘はみるみるうちに発展します。そして青い石はサファイアではなく、これまでにない新種の鉱物であるということが解明されます。その正体はわからないままでしたが、わずかの期間におよそ90件近くにも及ぶ採掘権が登録されたといいます。
後に化学分析した結果、この結晶は「ゾイサイト」という鉱物だということが判明しました。そして、このブルーゾイサイトの将来の可能性を見出したのが、米国の高級宝石商ティファニー社でした。 ティファニー社は、透明感が高く青紫色を見せるブルーゾイサイトを、「タンザナイト」と命名して、巨大なマーケティングを行います。ゾイサイトが発見されたのがキリマンジャロの麓タンザニアであることと、美しい青色がキリマンジャロの夕焼けの色に似ていることから、ティファニーの社長がこのように名付けたと伝わります。 ティファニー社は、タンザナイトの主要販売業者として鉱山と契約を結びます。1968年に世界中に発表された「タンザナイト」は、宝石コレクターやジュエリーデザイナー、宝石ディーラーなどから一気に注目を浴びることとなりました。
当初呼ばれていた「ブルーゾイサイト」という名前ですが、ティファニーの社長はゾイサイトがスーサイド(自殺)という響きに似ているということで、タンザナイトと呼ぶようにしたという説が流れています。正式な鉱物名は現在もブルーゾイサイトのままですが、ロマンティックな背景とともに、タンザナイトという名前がピタリと当てはまっているのではないでしょうか。
タンザナイトは、ジュエリーとして大変人気の高い宝石です。上品な色合いは年齢や装いを問わず、どんなシーンでもエレガントに着こなせる魅力にあふれています。
1968年にティファニー社によって大々的に宣伝されたタンザナイトは、多色性を持つサファイアブルーの新種の宝石として、ジュエリー業界に新風を巻き起こします。タンザナイトは洗練された印象の青紫色が特徴的で、さまざまなジュエリーに加工されてきました。ハリウッドセレブたちがレッドカーペットの上で豪華に着用して注目されるなど、常に世界中から熱い眼差しを注がれる存在となったのです。 タンザニアの夕焼け色といわれる、独特の青色が魅力的なタンザナイトですが、原石はほとんどが青味を帯びた褐色をしています。そのため、市場に流通しているほとんどのタンザナイトには、加熱処理を施して色を美しくしているといいます。
クールで落ち着いた印象のあるブルーをしたタンザナイトは、年齢を問わず全ての人に似合う宝石です。シルバージュエリーとして快活に着こなしたり、ゴールドと合わせて華やかに装うことも可能です。プラチナやダイヤモンドと合わせて、家族で大切に引き継げるジュエリーに加工するのも素敵ですね。 強い多色性や二色性を見せるタンザナイトは、ジュエリーだけではなくコレクションとしても楽しむことができる希少な宝石といえます。
タンザナイトは12月の誕生石であることから、誕生日プレゼントのジュエリーとしても最適です。ブルーの宝石としては、サファイアと並ぶほど人気の高い宝石なので、ペアリングとしてもおすすめです。婚約・結婚指輪として、ダイヤモンドのサイドにセッティングしたり、メインの宝石として選ぶことも可能です。
タンザナイトは比較的大粒で産出することが多いため、1カラット以上の大粒をネックレスに加工することもよくあります。タンザナイトの青色はエレガントで、高貴な雰囲気を演出します。1カラット以上の大粒のタンザナイトは、ネックレスとして美しく映えるので、パーティなどの華やかな席で着用するのにもおすすめです。 落ち着いたブルーの色合いはどんな装いにも合うので、タンザナイトの一粒ネックレスをカジュアルやビジネススーツに合わせると、洗練した雰囲気が高まります。
タンザナイトは、宝石としてどのように評価され、価値が決められるのでしょうか。こちらでは、タンザナイトの価値を決める重要なポイントなどについてをご説明していきます。
ジュエリーに加工できる宝石質のタンザナイトは、色の濃さ、透明感、多色性、などを評価して価値が決められます。 評価が高くなるのは、①濃い青色をしている ②透明感が高い ②多色性がはっきりしている ものです。カラット数は大きくなるほど評価も上がりますが、一般的に大きな結晶が産出されているため、急激な価格上昇は見られず、カラット相当の評価となります。 そのため、色が濃く透明感に優れ、はっきりとした多色性を見せる高品質であっても、驚くほどの高値が付くことはないようです。
ほかの希少石と比較すると、現在タンザナイトはカラット数による大きな価格上昇は見られません。しかし、人気の高い宝石であることから、原石の産出量は年々減少傾向にあるようです。このため、将来はタンザナイトの産出量が限られてしまうのでは、と懸念されています。
アメリカ製のリングでK10製のため、複数店でご相談なさったそうですが、全てサイズ直しの加工を断られてしまったとのことです。アメリカ製のリングはK14やK10の製品が一般的ですが、刻印通りの純度ではないことも多く、手を出すとジュエリー自体が溶けてしまうこともあります。そのため、K10やK14の製品の修理を断る工房も多いのですが、夢仕立ではK10のタンザナイトのリングのサイズ直しも行うことが可能です。 また、「タンザナイトは弱い」と考えている職人も多いため、タンザナイトのついているリングのサイズ直しは、そのことだけで断られてしまうこともあります。たしかにタンザナイトのついているジュエリーを加工する際には注意が必要ですが、しっかりとした手順で加工を行えば、とくに問題なく加工を行うことができます。今回もご希望通りのサイズに仕上がり、大変ご満足いただくことができました。 事例:MS19276(タンザナイトサイズ直し) 加工期間:約3週間位 加工代金:約¥20,000位(税別)
タンザナイトはそれほど強い石ではありませんが、あくまで「宝石の中で比べると、それほど強いわけではない」というレベルで、全ての物質の中では比較的硬いと言ってもよい程度の強度は持ち合わせています。貴金属加工職人の方は、宝石についてはあまり知識のない方も多く、「タンザナイトは熱に弱い」ということ思い込んでいる方も多いのです。 タンザナイトは宝石にされる際にその殆どが熱処理によって美しい青紫の色に変化しています。その際に変質し「3色性」から「2色性」に変化してしまいますが、宝石として販売される際には、その2色性を見極めて、ちょうど良い色合いのところで熱処理を止めます。過度に熱を加えすぎると色が深くなり過ぎてしまい、暗い色合いの石になってしまうことがあるためです。これは加工の際の熱にも影響されることです。そのため、タンザナイトがついているジュエリーを修理する際には、石を外してから行わなければなりません。このことが「石を外さなければならない=熱に弱い石」という職人の誤解を生んでいることは確かです。 夢仕立では貴金属加工と宝石鑑別についての知識と技術はどちらも同じく高い水準が必要であると考えています。貴金属加工の技術のみでは、お客様の品物に対して正しい加工技術の判断をすることができない場合や、加工できるにも関わらず加工できないという判断を下してしまうこともあるため、夢仕立では日々「加工技術」と「宝石鑑別」についての研鑽を積み続けております。
タンザナイトは、美しい青色と多色性という個性を持つ神秘的な宝石です。ほかの希少石と比較すると、グレードの高いものでも比較的入手しやすい価格であることも魅力のひとつです。 はっきりした多色性を持つタンザナイトなら、見る角度や光源を変えて、移り変わる色の変化をじっくり楽しむこともできます。
この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
日本宝石協会理事
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
依田 宇弘