この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
高嶋 真紀
アンティークネックレスの歴史は長く、時代の移り変わりとともに素材やデザインも変化してきました。ネックレスは紀元前から人々に使用されており、魔よけなどの護符としての意味から地位や権力を示すものとなり、やがてファッションとして装うものへと変化を遂げてきました。アンティークネックレスの歴史をたどりながら、デザインや素材の変化などをご紹介します。
アンティークジュエリーとは、現在より100年以上前に製作されたジュエリーを指します。現在から50年以上前~100年以内に製作されたものは、ヴィンテージと呼んでいます。 アンティークネックレスが作られた歴史は大変古く、古代メソポタミアや古代エジプトなど紀元前の時代から人々はすでにネックレスをジュエリーとして着用していたといいます。初期のころは羽根や貝殻、動物の骨や植物などといった自然の素材を用いてネックレスを作っていました。やがて貴金属や宝石の発見と共に技術が発展し、繊細なデザインと華やかな色使いを用いた豪華なネックレスが製作されてきました。 古代エトルリアでは鍛金技術の「レポゼ」が発達し、繊細なディテールを施したネックレスが作られました。この時代には青や緑のエナメルが施されたロゼットや、動物をモチーフにしたペンダントなどが製作されています。 古代の時代にはネックレスなどのジュエリーは権力や財力を象徴するものとされ、王族や聖職者のみが身に着けることが許さていました。ゴールドやシルバーが採掘されると共に金銀細工技術が発展し、高い技術を用いた美しいネックレスが作られてきました。ネックレスには大粒のアメシストやサファイア、ルビー、ダイヤモンドなどが配され、芸術性の高いオーナメントのような作品が数多く残されています。 ヨーロッパでは、紀元前のころから銅やシルバー、ゴールドを使用した重量感のあるネックレスが作られています。ルネサンス期では男女ともにネックレスを装うことが流行しました。とくに地位の高い男性には肩幅を覆うような幅の広いネックレスが好まれ、宝石もたくさん配したデザインが流行ったようです。 バロック期になるとネックレスの人気は衰え、シンプルなパールネックレスのみを装うようになります。後に肖像画を入れたロケットペンダントが流行します。18世紀以降は宝石を豪華に配した華やかなネックレスが大流行し、フランスの王侯貴族などが優美なネックレスを着用するようになります。 時代と共にネックレスのデザインも変化し、プラチナやダイヤモンドが大流行します。ヴィクトリア時代やアール・ヌーヴォー、アール・デコ時代には、それぞれの時代背景や流行を象徴する美しいネックレスが製作されてきました。
紀元前の時代には、動物の骨や歯や貝殻、花や草などの植物、石などといった、身の回りにある自然の素材を紐などに繋げてネックレスにしていました。古代の頃にはネックレスなどのジュエリーは主に魔よけやお守りなどの意味があり、邪気や病気などから身を守るものとして着用していたと伝わります。
銅をはじめ、ゴールドやシルバーなどの発見とともに続々と美しいネックレスが作られてきました。繊細な金銀細工技術が発達し、現代では再現不可能なほどの高技術で製作された作品も残されています。合金技術も向上し、ピンチベックなどの合金が開発されています。
古代エジプトではラピスラズリやコーネリアンなどが使用されていました。時代とともにアメシストやサファイア、ルビー、エメラルド、シトリンなどのカボションをセッティングした華やかなネックレスが製作されています。カット技術の発展と共に、ダイヤモンドのカット方法も異なってきます。
古代の時代には、男性は権力や財力を象徴するものとしてネックレスを着用していました。幅の広いカラータイプなどを装うことで、王であることや聖職者としての地位を表現したといいます。男性がチョーカーやロングネックレスを着用した時代もありました。
貴金属をチェーン状にして繋げたネックレスです。古代の時代には石やビーズ、動物の骨などを繋げてチェーンのように着用していました。様々なスタイルのチェーンが作られており、ペンダントやモチーフなどを下げたり、チェーン全体に宝石を配したものなどデザインも変化してきました。
家族や恋人の肖像画や写真などをロケットに入れて、ペンダントとして着用するものです。イタリアではマイクロモザイクやカメオなどのペンダントが製作されました。センチメンタルジュエリーが流行した時代には、大切な人の髪の毛を形見としてペンダントの裏側にはめ込んだり、メッセージを刻んだりして形見にしていました。
古代エジプトの王族が着用したような、フラットで幅のあるオーナメントです。ゴールドに模様を施したり、宝石のビーズを繋げた豪華な物が作られました。中世ヨーロッパでは、太くて幅のある長いチェーンを王族や聖職者が身に付けました。エドワーディアン期にはドッグカラーと呼ばれるチョーカーが大流行します。
古代エジプトでは、スカラベや太陽神ラーのモチーフが代表的です。クロスやキリストなど宗教的な意味を持つモチーフも長い間流行しました。虫や動物、花や植物をモチーフにした繊細なデザインや、ギリシャ神話の登場人物や王族の肖像画を刻んだカメオなども流行りました。モチーフの周囲には宝石が施されるなど、大変繊細なディテールで作られています。
家族や恋人などの肖像画や写真をロケットに入れたものです。ロケットの外側には細やかな彫刻が施され、宝石やエナメルなどで美しく装飾されています。裏側にメッセージを刻んだり、亡くなった人の髪の毛を形見としてはめ込んだものもあります。19世紀のイギリスで大流行しました。
犬の首輪に似た「ドッグカラー」と呼ばれるデザインで、首にしっかりと巻き付くタイプです。エドワード王子の妻アレクサンドラ王妃が着用したことで、エドワーディアン期に大流行しました。ヴェルヴェットとレース地にパールやダイヤモンドを施した豪華なデザインは、王妃の首の傷を隠すために作られたといいます。
彫刻を施したゴールドに宝石をたっぷりと配した、豪華なデザインです。大きな宝石を何石も連ねたり、植物モチーフに宝石をセッティングするなど芸術的な作品が製作されました。バロックパールを動物や人魚の形に仕立て、周囲に宝石を散りばめた美しいペンダントなどはジュエリー史に残る作品として扱われています。
ゴールドやシルバーは紀元前からネックレスに使用されてきた素材です。古代エトルリアではグラニュレーションと呼ばれる粒金技術が誕生し、繊細なネックレスが製作されました。シルバーも長い間ネックレスの素材に用いられましたが、19世紀末にはプラチナが主流となります。
金・銀・プラチナの貴金属以外にも、真鍮やブロンズなどの素材が用いられています。18世紀のイギリスではピンチベックという素材が大流行します。ピンチベックとは銅と亜鉛を混ぜた合金で、ゴールドのような輝きを見せます。製造期間が短かったこともあり、高い希少価値がある素材です。
ネックレスには、古代の時代からラピスラズリやカルセドニー、コーネリアンなどが使用されていました。ルビー、サファイアなども古くから用いられており、アメシスト、シトリン、エメラルド、トパーズなど、カボションカットにした大きな色石が配されています。時代と共にファセットカットが発展しました。
パールも古くからネックレスに使用されてきた人気の宝石です。小粒のパールを連ねたモチーフや、つゆ型のパールを一粒ドロップしたもの、バロックパールを動物のフォルムに見立てるなど、芸術的なデザインに仕立てられました。1900年代初頭は素晴らしい天然真珠のネックレスが製作されましたが、1920年以降は養殖真珠が使用され始めます。
ダイヤモンドは古代インドの時代から見つかっていましたが、19世紀後半に南アフリカで鉱山が発見されヨーロッパでの需要が一気に高まります。カット技術が発展により、美しい輝きを生かしたネックレスが製作されました。プラチナとダイヤモンドを主流とするガーランド様式では、白い輝きを強調した華やかなデザインが特徴的です。
べっ甲や珊瑚、象牙、埋もれ木、ジェットなどの自然や動物の素材から、ペースト、ガラス、エナメルなどが使用されてきました。マーカサイト、アルミニウム、カットスチールなどの素材も一時期流行しました。
宗教的な意味を持つロザリーや、立体的なモチーフのペンダントが流行します。古代ローマ・ギリシャ時代のリバイバルや、聖書を題材にしたモチーフが製作されます。エリザベス女王1世の肖像を彫刻した素晴らしいカメオも残されています。16世紀半ば以降には、ゴールドに繊細な彫刻を施し、パールや宝石とエナメルによるロングネックレスが製作されました。
スチュアート時代には、王の肖像画のミニチュアをはめ込んだロケットペンダントが製作されました。コロンブスのアメリカ大陸発見により、金銀やエメラルドの需要が増え、美しいネックレスが製作されます。中期以降はリボンやトゥルー・ラヴァーズ・ノットのモチーフが大流行します。金をツイストさせてエナメルを施したデザインで、愛を結ぶ結び目として親しまれてきました。
ダイヤモンドの代用品となるペーストが大流行します。乳白色系の青いペーストの下にピンクのアルミホイルを敷いたものは、オパールの代用として使われました。宝石を豪華に配して立体的な花束に見立てたフラワースプレイも流行。中期以降は王侯貴族の間でダイヤモンドジュエリーを所有することが必須となります。王侯貴族のために、大きなダイヤモンドを連ねた豪華なネックレスがいくつも製作されました。
初期には、愛する人への思いを込めたセンチメンタルジュエリーが流行ります。ミニチュアの肖像画や亡き人の髪の毛をロケットにはめ込んだり、メッセージを刻んだペンダントなどが製作されました。ナポレオン時代にはジョゼフィーヌ皇后のために豪華なネックレスが作られます。グランドツアー流行時には、土産品であったモザイクやエナメルなどのネックレスがもてはやされます。ルネサンスリバイバルやオリエントからの影響、モーニングジュエリー、機械製作などジュエリーの流行が最も発展した時代でした。
19世紀後半から始まったアール・ヌーヴォーが流行します。ルネ・ラリックによる芸術的なジュエリーが一世を風靡し、イギリスではアーツ&クラフツ運動が生まれます。エナメル技術が発展し、ウイリアム・モリスやガスキン、リバティなどが歴史に残る美しい作品を残しました。その後カルティエにより、幾何学的でモダンなアールデコ様式が大流行します。
アンティークネックレスは、時代の古いものほど流通量が少ないためその分希少価値が高くなります。アールデコ時代のネックレスは比較的多く出回っていますが、価格はネックレスの状態や貴金属・宝石の品質、製作技術によって異なります。 合金やガラス素材などを使い大量生産されたネックレスは、1万円以内ほどでも入手可能です。貴金属や宝石を使用したものであれば、3万円以上になるのが一般的です。さらに時代が古い物や高品質の宝石やダイヤモンドが配されている場合には、100万円以上の価値が付く場合もあります。著名なデザイナーやブランドが製作した作品には、さらに大きな希少価値が付けられるでしょう。
アンティークネックレスは金や銀でできているものの他に、真鍮製のものも多くみられます。 真鍮は加工が容易で当時から気軽に加工できる、デザイン性の高いアクセサリーの素材として重宝されました。 また、純度の低い金製品も多くみられます。
こちらも真鍮同様、加工が比較的容易にできるため、宝飾職人に重宝されました。 しかし、これらの素材は素材中に気泡の跡である空洞が多くみられ、低い温度でも容易に溶解してしまいます。 そのため、チェーンが切れるなどの故障が頻繁に起こりますが、現在ではこれらの修理を行う工房はあまりありません。 しかし、夢仕立工房では純度の低い金製品や銀製品、真鍮性のチェーン素材の修理も承ることができます。 これは夢仕立独自の経験にも基づく温度設定や溶接媒体の開発によるもので、通常の工房でロー付け(溶接)することができないものでも、溶接が可能です。(承ることができないものまります。)
アンティークネックレスは壊れやすいものが多く、また一度壊れてしまうと直すことが極めて困難でお困りの方が多いのも事実です。 もしお困りのことがありましたら、ぜひ夢仕立工房へ一度相談してみてください。
当時の職人が高い技術で製作したアンティークネックレスには、当時の歴史や時代背景が刻まれた芸術作品ともいえます。アンティークネックレスは偽物も多く出回っており、海外のマーケットでもディーラーが偽物と知らずに販売している場合があります。アンティークネックレスを購入する場合には信頼のできるショップに行き、専門スタッフに詳しく説明を聞かれることをおすすめします。
この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
高嶋 真紀
アンティーク・ジュエリーのデザインや種類は、人類の長い歴史と共に変化を遂げてきました。こちらでは、アンティーク・ジュエリーのイメージから、アンティーク・ジュエリーの種類・デザイン・素材・価格などについてをご説明していきます。これからアンティーク・ジュエリーをコレクションしたいとお考えでしたら、ぜひ一読してみて下さいね。
大切なパートナーとの絆を深めるペアリング。カップルで着けるお揃いのペアリングは、お二人の記念日や誕生日のプレゼントとしても人気です。初めて選ぶペアリングは、どのように選べば良いのでしょうか。人気の素材やデザインとは?予算はどれくらい?お二人の愛を繋げるペアリングの賢い選び方から、オーダーメイドの仕方などをご紹介していきます。