この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
山本 菜摘
アンティーク・ジュエリーのデザインや種類は、人類の長い歴史と共に変化を遂げてきました。こちらでは、アンティーク・ジュエリーのイメージから、アンティーク・ジュエリーの種類・デザイン・素材・価格などについてをご説明していきます。これからアンティーク・ジュエリーをコレクションしたいとお考えでしたら、ぜひ一読してみて下さい。
アンティーク・ジュエリーとは、どの時代に製作されたものを指すのでしょうか。ヴィンテージ・ジュエリーや、エステート・ジュエリー、リプロダクションとはどう違うのでしょうか?
アンティークジュエリーとは、製作時から100年以上経過したジュエリーやアクセサリーのことで、現在から100年以上前~紀元前の頃に製作されたものまでの、全てのジュエリーを指します。発見された土地や時代が多岐に渡り、歴史的にも重要な芸術品とされています。
現代のような技術が発展していなかった紀元前でも、人々は樹木や動物の骨、石などを使用して、巧みな技術で繊細なジュエリーを製作してきました。やがて金が発見されると金細工が発展し、美しく輝く宝石やダイヤモンドの発見と共に、ジュエリーは権力や財力を象徴するものとして、増々そのパワーを高めていきました。
パリでカルティエやヴァンクリーフ・アーペルといった宝飾店が芸術的なジュエリーを製作し始めると、ヨーロッパの王侯貴族やインドのマハラジャ、アメリカの富裕層などが顧客となります。デザインにも流行が現れ始め、安価で入手できるアクセサリーが出始めたことから、一般社会でもジュエリーを着用する習慣が広がりました。
アンティークジュエリーとは、現在から100年以上前に製作されたものです。現在から100年以内に製作されたものは、「ヴィンテージ・ジュエリー」と呼ばれます。ただし、昨年製作されたものはヴィンテージには分類されません。現在からおよそ20年ほど前から100年以内に製作したという歴史を持つものを、ヴィンテージと呼びます。
「エステート・ジュエリー」とは、誰かの財産(エステート)という意味があるため、時代に関わらず全ての中古のジュエリーを指します。ですが、ヨーロッパのアンティーク・ディーラー達は、現在から30年ほど前までに製作されたものをエステート・ジュエリーと呼んでいるそうです。
リプロダクションとは「再生」という意味で、アンティークのデザインを真似て作られたジュエリーです。100年以上前に作られたものではないため、宝石のカットや金属の留めなどの細部や状態で、本物のアンティークとは区別が付きます。リプロダクションの品物は、アンティーク風やアンティークスタイルと表示して販売されています。ただ、海外のマーケットなどでは、販売する側も偽物と知らずに売っている場合もあるので注意が必要です。
ヨーロッパでは、古来から指輪やイヤリングなどのジュエリーを男女共に身に着ける習慣がありました。時代の流れと共に、着ける意味やデザイン・素材も変化しています。
彫刻が施されたインタリオ(印章)や、ルビーやサファイア、エメラルド、パール、オパールなどの宝石を配したものなど、時代を象徴するデザインで作られています。宝石のカットやセッティングも時代によって異なります。素材はゴールドやシルバーなどが主流ですが、19世紀末以降にはプラチナが流行します。
婚約指輪を贈る習慣は、紀元前1世紀の古代ローマ時代に始まったとされます。15世紀なると、王侯貴族の間でダイヤモンドの婚約指輪を贈る習慣が始まりました。ダイヤモンドの他にも、ルビーやサファイアなどを用いた婚約指輪が製作されています。
ローズ・カットやオールドマイン・カット、オールドヨーロピアン・カットなどが施されたダイヤモンドが配されています。19世紀末のベル・エポック時期になると、ゴールドに変わってプラチナが流行したことから、この時代以降はプラチナとダイヤモンドの指輪が多くなります。
紀元前では羽根や貝などを繋げたネックレスを着用していました。後にラピスラズリやアゲート、ゴールドなどが素材に用いられます。中世ヨーロッパでは、王侯貴族が大粒の宝石を配した豪華なネックレスを着用。時代と共にドッグカラーやロングタイプなど、さまざまな長さのタイプが流行しました。
紀元前5000年頃の古代エジプトでは、骨や石や木などで作ったブレスレットを使用していました。神秘や宗教的な意味を持つとされ、後に水晶やラピスラズリなどの宝石を配するようになります。19世紀以降は、時代の流行と共に、ディテールに凝ったデザインが取り入れられています。
古代ギリシャやローマで、衣服を留めるフィビラとして使用されたのが始まりです。当時のフィビラは、権力や地位を象徴するものとして扱われてきました。金や銀・ブロンズなどに高度な彫刻を施し、宝石やエナメルで美しく装飾した、造形美のあるものが製作されています。カメオやモザイクも代表的なブローチとして人気です。
古代の時代では、人々はフープイヤリングを着用していました。19世紀以降はダイヤモンドやルビー、サファイア、シトリンなどの宝石を配したものや、精巧な金細工によるシャンデリアやフラワーモチーフなど、存在感のあるものが製作されています。
時代の流れと共に、ジュエリーのデザインと素材は変化しています。こちらで、現在流通しているアンティーク・ジュエリーのデザインと素材についてをご紹介していきます。
アンティークジュエリーは欧米でも大変人気が高く、アンティークマーケットは有名オークションハウスには、常に多くのアンティーク・ディーラーが買い付けに訪れています。
現在、海外では19世紀後半以降のアンティーク・ジュエリーが主流です。18世紀のジュエリーは流通量が減少しているため、希少価値も高くなっています。
18世紀のジュエリーの素材は、イエロー・ゴールドとシルバーが主流。シルバーはダイヤモンドの周囲に使用することが一般的でした。19世紀末にはプラチナが使用され始め、エドワーディアンやベル・エポック時代のアンティーク・ジュエリーには、プラチナが主に用いられています。
ダイヤモンドは、時代によってカット方法も進化してきました。17世紀中期からはローズカットが主流で、後にオールド・マインカットや、オールド・ヨーロピアンカットが登場。20世紀に入ると、ラウンド・ブリリアントカットが誕生します。
ルビー、サファイア、エメラルド、アメシスト、シトリン、ガーネット、パール、オパールなどが主流です。カボションカットを施したものが多く、人工処理がされていない天然色の宝石が用いられています。
18世紀のイギリスで発明された技法です。小さなスチールにダイヤモンドのようなファセットカットを施し、表面に光沢を出したものです。
ペーストとは、宝石のようなカットが施されたガラスで、18世紀~19世紀中期にかけて製作されたものです。ゴールドやシルバーを用いたジュエリーにセッテングされ、高価なダイヤモンドの代用品として、当時大流行しました。
貴金属に釉薬を乗せ、摂氏800度ほどの高温で焼き上げる、高度な技法です。永遠に変色することが無く、透明感の高い芸術的な作品に仕上がります。
花や葉、果物、動物などをモチーフにしたデザインです。19世紀初頭から流行したスタイルで、カラーストーンを使用した華やかなジュエリーが製作されました。
プラチナをレースのような花綱模様に加工した、繊細なデザインです。ダイヤモンドやパールを配して、白一色で統一しています。カルティエが確立したデザインで、19世紀後半から流行しました。
花や植物、昆虫、女性の姿などをモチーフや、美しい曲線を取り入れたデザインで、19世紀末から流行しました。日本美術から着想を得ており、エナメルや宝石で色鮮やかに仕上げられています。
幾何学模様をモチーフにしたデザインで、20世紀初期に流行しました。カルティエが確立、直線や左右対称のシンプルなスタイルです。この時期には、色石を用いた、フルーツや植物モチーフも流行しています。
ジュエリーのデザインや素材から、歴史的背景や技術の向上を垣間見ることができます。現在市場に流通しているアンティーク・ジュエリーの歴史を簡単に紐解いてみましょう。
レポゼやカンティーユという金細工技法が誕生します。愛する人へのメッセージを込めた「リガードリング」と「ディアレストリング」、ロケットに髪の毛を入れたり、ミニチュア・ポートレートをペンダントにした「センチメンタル・ジュエリー」が流行します。昼間は色石や真珠などを身に着け、ダイヤモンドは夜に着けるジュエリーとされていました。
ロマンティック時期(1837~1860年)には、中世の時代のリバイバルや自然主義が流行します。グランピリオド時期(1860~1885年)になると古代様式が流行し、ジュリアーノとカステラー二が古代の金細工を再現したジュエリーを製作します。この時期、夫アルバートを亡くしたヴィクトリア女王が着用したジェットが、モーニング(喪に服す)ジュエリーとして流行しました。1880年頃には、ウイリアム・モリスが主導し、アール・ヌーヴォーの先駆けとなる、アーツアンドクラフツが誕生しています。耽美主義時期(1886~1900年)には、ダイヤモンドやカラーストーンを用いた大胆で色彩豊かななデザインが流行しています。
1890年頃~1915年頃に製作されたもので、フランスのベルエポック時期となるデザインです。ドッグカラーネックレスや長いネックレス、ティアラ、バンドーなどが流行します。南アフリカでダイヤモンド鉱山が発見され、ダイヤモンドの人気が上昇。プラチナ供給量も増えたことから、プラチナとダイヤモンド・パールを用いたガーランド様式が大流行します。
新しい芸術を意味する美術運動で、ヨーロッパを中心に国際的に発展しました。自由な曲線と植物や昆虫、鳥、女性の髪の毛などをモチーフにした、繊細なデザインが流行しました。柔らかな色合いのカラーストーンやパール、エナメルを用いた、優しくデリケートな印象のデザインや、日本芸術から着想を得たスタイルも取り入れられています。
アール・ヌーヴォーとは対照的となる、シンプルで対比的な直線で作られたデザインが流行します。幾何学模様にダイヤモンドや色石を配し、キュビズムから影響を受けたスタイルを表現しました。この時期には化粧箱やロングネックレス、幅のあるバングルなどが流行。ルビー、サファイア、エメラルドを用いたフルーツ・モチーフのジュエリーも製作されました。
アンティーク・ジュエリーの価格は、ジュエリーが製作された時代や素材、さらにジュエリーの状態によって異なります。市場での流通量が少ない古い時代のジュエリーは希少価値が高く、その分価格も高くなります。ゴールドやダイヤモンド、貴石などの素材が使用され。高い技術で製作されたものであるほど、価格も上昇します。ただし、ジュエリーに破損やキズなどがある場合には、価格にも影響します。
3万円代~10万円以内の価格で販売しているアンティーク・ジュエリーも多くありますが、芸術的価値の高いものは数10万円以上の価格が付いています。さらに高い技術と素材が用いられ、歴史的背景のあるジュエリーであれば、数百万円もの価格が付くことになります。
アンティーク・ジュエリーを気軽なコレクションとして購入するのか、価値のある資産として購入するのか。目的や予算を考慮した上で、ご自分の好みに合うアンティーク・ジュエリーを選ぶことをおススメします。
歴史が刻まれたアンティーク・ジュエリーは、着けるだけではなく芸術品としての価値もある作品です。ジュエリーが作られた時代背景やデザインの歴史などを知っておくと、アンティーク・ジュエリーへの愛着がより一層増すのではないでしょうか。
この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
山本 菜摘
アンティークネックレスの歴史は長く、時代の移り変わりとともに素材やデザインも変化してきました。ネックレスは紀元前から人々に使用されており、魔よけなどの護符としての意味から地位や権力を示すものとなり、やがてファッションとして装うものへと変化を遂げてきたのです。こちらでは、アンティークネックレスの歴史をたどりながら、デザインや素材の変化などをご紹介していきます。
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