この記事の監修者
英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
夢仕立工房 ジュエリーデザイナー
依田 優子
誰もが憧れる著名な高級ブランドのひとつ、独立した精神とクラフトマンシップに溢れ、多岐に渡り数多くの逸品が生み出されるエルメスはどんな企業なのか、その歴史を探ってみましょう。 創業以来、エルメスは2つの軸を最も大切なものとして活動を続けてきました。一つは職人の緻密なものづくり、そしてもう一つは顧客のライフスタイルです。
アルフレッド・ド・ドルー(1810年~1860年) 『四輪馬車と従者』 エミール・エルメス・コレクションより @ GUY LUCAS DE PESLOUAN エルメス公式サイトより引用 この絵画のシルエットがエルメスのロゴになっています。
エルメスの道の原点は1837年にパリで始まります。最初は、ティエリ・エルメスがパリのバス・デュ・ランパール通りに開いた小さな馬具工房でした。常に時代の先を行くモダンな街パリで、彼は当初から顧客が望むもの、洗練や軽やかさを求める声を理解し、先回りして思い描くことができたのです。彼が作る馬具は、控えめで洗練されておりかつ、どんな状況でも持ちこたえる頑丈さも持ち合わせていました。その並外れた技術は1867年にパリで開催された万国博覧会での受賞につながります。
ティエリ・エルメスの息子であるシャルル=エミール・エルメスは、アトリエをフォーブル・サントノーレ通り24番地に移し、工房に併設した店舗を持つようになります。のちにエルメスの象徴となったこの住所で、オーダーメイドの馬具と鞍が作られるようになりました。エルメスはその卓越した製品で頭角を現し、ヨーロッパ全土に名が知られるようになります。
エルメスはシャルル=エミールの息子 エミール・エルメスのもとで革新を遂げます。 第一次、第二次世界大戦と時は流れ、人々のライフスタイルは大きく変化しました。エルメスは、鞍や馬具はもとより皮革製品に至るまで、社会変化に柔軟に応じたさまざまな製品を生み出しました。カナダに赴いた際、彼は軍用車のボンネットの開閉に使われていたアメリカ製の「万能閉じ具」に魅了されます。1922年、彼は今日ではジッパーの名で知られているこのシステムのヨーロッパでの独占権を取得します。その後、エルメスのさまざまなバッグに取り付けられました。 また生涯を通じて、膨大な数の美術作品、書籍、オブジェ、珍品・奇品を熱心に収集しました。このコレクションが、彼の後継者により更に充実することになり、エルメスの尽きることのないインスピレーション源となって多くの商品が生まれ世に出ています。 1925年:初のメンズウェア、ゴルフ用ブルゾンが登場 1927年:乗馬の世界からインスピレーションを得たジュエリー“フィレ・ドゥ・セル”が登場 1928年:続いて時計とサンダルを発表 1937年:初のシルク製スカーフ“カレ”のラインを発表 当時のボードゲームを題材とした“オムニバスと白い貴婦人のゲーム”がエルメスのカレの第1号が登場
4人の娘の父であったエミール・エルメスは、娘婿たちに後継を任せます。そのうち義父を継いで1951年にエルメスの代表となったのがロベール・デュマです。エルメスの目覚ましい発展はここから始まりました。最初のシルクのカレ、将来“ケリー”の名で知られるようになったハンドバッグなど。ロベール・デュマ自身がノルマンディー海岸に係留された船を目にしたときに着想し、デザインされたブレスレット“シェーヌ・ダンクル”などが生まれました。
1930年代にロベール・デュマのデザインとされるハンドバッグ。1956年にこのバッグを手にしたグレース・ケリー(モナコ公国の公妃)の写真が報道され世界中に広まりました。グレース妃がこのバックを愛用していたという敬意を表して、エルメスはこのバッグを“ケリー”と名付けました。
1967年、エルメス初のレディスのワードローブを任されたのが、ハンガリー出身のフランス人ファッションデザイナー、カトリーヌ・ドゥ・カロリ。カロリは1980年までレディスのプレタポルテとアクセサリーのコレクションをデザインしました。 中でもとりわけ名高いのは、ロゴの頭文字のHをかたどったHバックルです。
1978年以降、ロベール・デュマの息子であるジャン=ルイ・デュマはメゾンにひそやかなる革命をもたらしました。 先見の明ある彼は、あらゆるもの、文化に興味を持ち、文化を多様化して世界中へと押し広げました。エルメスではユニークなノウハウを基盤として新しいメチエ(製造分野)が登場しています。 1976年:シューズメーカーのジョン・ロブとともに靴製造の技術を開拓 1978年:時計製造のメチエ“ラ・モントル・エルメス“が登場 1993年:ピュイフォルカと金細工の製造を展開 1995年:サンルイ社とクリスタル製造へと事業拡大
ジャン=ルイ・デュマとジェーン・バーキン(イギリスとフランスをまたがる女優、歌手、モデルとして活躍したマルチアーティスト)の機内での偶然な出会いをきっかけに、彼女にとって理想的なバッグをジャン=ルイ・デュマがデザインしました。エレガントでボリュームがあり、夜も昼も使えるバッグ“バーキン”の誕生です。
エルメスの創業150周年の記念に、パリのポン・ヌフ橋のたもとにて記憶に残るようなお祝いが催されました。 今ではエルメスにとってなくてはならない“年間テーマ”の第一号が掲げられました。この“年間テーマ”という共通のインスピレーション源が、エルメスのさまざまな創造力を育んでいます。
シルクツイルの“カレ“ エルメス150周年を記念し、ミシェル・デュシェンヌによって描かれた花火 エルメス公式サイトより引用 更に新しいアトリエを開設し、ジャン=ルイ・デュマのリーダーシップのもと、世界中に数多くの店舗をオープンしていきました。
ジャン=ルイ・デュマの息子で6代目のピエール=アレクシィ・デュマがエルメスのアーティスティック・ディレクターに就任すると更に豊かに、革新とファンタジーが融合して豊かな創造力が躍動しています。
“行動こそが人を作る”という信念に基づき、主に創造、ノウハウの伝承、地球環境の保護、連帯の分野での活動を行う。
ジャン=ルイ・デュマの姪であるパスカル・ミュサールの主導のもと、“さかさま”のプロセスを経て常識にとらわれない作品を生み出している。 2010年 カジュアルなジュエリーに加えて、初のハイジュエリーコレクションを発表 2011年:唯一無二のオーダーメイドのオブジェのデザインを手掛けるなど、初の家具用ファブリックと壁紙を発表 2015年:AppleとのコラボレーションからApple Watch Hermèsが生まれる 以降も更なる新しい店舗、事業展開を続けています。
美しい口元をテーマに、最初のコレクション”ルージュ・エルメス”を発表 創業以来200年近くに渡り、エルメスは常に自由で創造力豊かなエスプリを原動力に、独自の感性で社会変化や人々のニーズの移り変わりを見つめながら、今も尚発展を続けています。
エルメスのジュエリー“シェーヌ・ダンクル“のテーマは”固く結ばれた絆“で、錨の鎖をモチーフにしています。 エルメスの第4代社長であるロベール・デュマが、1937年にノルマンディの海岸で船の錨の鎖を見て着想を得て、エルメスの頭文字である「H」を鎖の部分にデザインしたものが始まりです。当初はメンズラインとして登場しました。その後ユニセックスなラインが登場して、高級感を持ちながら、シンプルでミニマルかつ幅広いファッションに合い、男女問わず人気のアイテムとなりました。
ブランドのアイコンであるバッグ“ケリー“をモチーフにしたハイジュエリーコレクションです。 バッグの台形の形や南京錠、クロシェット(アクセサリー兼キーケースとして首にかけられるアイテム)、トゥレクラスプ(止め金具)などのディテールが繊細に表現されています。 エルメスのジュエリー“ケリー“は、ジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクター ピエール・アルディが2000年代に完成させたコレクションで、バッグ“ケリー”のフォルムや要素を取り入れたデザインです。
すべての始まりは「馬」にあります。ハーネス(手綱)、ハミ(馬の口に咥えさせる道具)、バックル、といった馬具がメゾンの創造性豊かなノウハウによって、特別なオブジェに生まれ変わります。大胆なフォルム、軽やかな着け心地、卓越の素材。それらが騎士精神のジュエリーを形作っています。絶えることなく刷新される乗馬のヘリテージを受け継ぐエルメスのジュエリーは、身に着ける人の肌に寄り添い、しぐさやスタイルを引き立てます。
メゾンにまつわるさまざまなエピソードから自由にインスピレーションが羽ばたき、物語に満ちたウェディングジュエリーが生まれます。メゾンに受け継がれる物語から“エヴァー・ケリー”、“シェーヌ・ダンクル”、“エヴァー・セリエ”が生まれました。 そしてさらに“アリアンヌ”、“ヴェルティージュ・クール”、“グラン・ジュテ”が新しい物語を紡ぎ、人生を共にする2人を称えます。エルメス ジュエリー部門クリエイティブ・ディレクターのピエール・アルディのデザインが、メゾンのノウハウ、素材、そして光をジュエリーへと昇華させます。ピンクゴールド、ホワイトゴールド、プラチナ、ダイヤモンドの素材の中に、大胆 かつ高貴に、エルメス独自の感性を表現したジュエリーのフォルムに仕上げています。
数多くあるエルメスの象徴的なジュエリーのほんの一部をご紹介します。
定番のアイテムは、ブレスレット。現在では手にいれるのが困難なアイテムです。 *GALLERY RAREサイト参照/画像はALLUサイトより引用 基本価格:13万7500円 – 19万2500円 コマ数により価格は変動しますが、コマの長さ調整は可能 アイテム:ブレスレット 地金種:シルバー サイズ:1コマのサイズに種類があり、5つのサイズ展開 TPM コマのサイズ9mm コマ数* 26コマ(約16.3cm)、28コマ(約17.5cm) PM コマのサイズ14mm コマ数* 20コマ(約15.1cm) MM コマのサイズ17mm コマ数* 17コマ(約22.3cm) GM コマのサイズ21mm コマ数* 13コマ(約22m) TGM コマのサイズ24mm コマ数* 12コマ(約22.5cm) *手首の長さにより異なるため参考数になります
ケリーバックをジュエリーに変貌させた唯一無二のハイジュエリー 台形のフォルム、バッグのキーを包む小さな革鞘のクロシェット、南京錠のカデナ、留め金のトゥレクラスプ、ベルトをシルバーまたはゴールドで再現し、バッグの魅力を細部まで繊細に表現しています。 *Precious.jpサイト参照 / 家庭画報サイトより引用 参考価格:1億3776万4000円 地金と宝石種:ピンクゴールド、ピンクサファイア(1,163個、41.95ct) サイズ:縦(ハンドル部まで)15.5cm 横12cm マチ4cm
馬の蹄をイメージしたシンプルな形態が特徴。同じデザインでリングとブレスレットを展開しています。 *エルメス公式サイトより引用 基本価格:ピンクゴールド製56万1000円、シルバー製13万8500円 アイテム:リング、同じデザインのブレスレットがあり 地金種:ピンクゴールド750 / 1000、シルバー925石なし など 宝石種:ダイヤモンド サイズ:13号、16号 全幅0.41cm リングの幅0.16cm (以下ピンクゴールドリングのダイヤモンド個数と大きさ) ダイヤモンド2個 総カラット数0.1 ct
ずっと変わらない存在、“ケリー“は、エルメスにとって大切なインスピレーションの源です。バックル式のバッグのように、自動で閉まるリング“エヴァー・ケリー”。ふたりの絆がほどけないようにという思いを込めたリング。 *エルメス公式サイトより引用 基本価格: プラチナ製28万6000円、ピンクゴールド製26万6200円 アイテム:リング、同じデザインの石なしのものがあり 地金種:プラチナ950 / 1000、ピンクゴールド750 / 1000 宝石種:ダイヤモンド サイズ:6号〜16号、19号 リングの幅0.25cm ダイヤモンド2個 総カラット数0.01 ct
勢いと儚さ、力強さと繊細さ…。史上最も有名な英雄にインスピレーションを得たリング“ヘラクレス”。 ゴールドとダイヤモンドがきらめく、H文字が印象的なジュエリーです。“エヴァー・ヘラクレス”は、H文字を指のカーブに寄り添うようにデザインされています。 *エルメス公式サイトより引用 基本価格: ホワイトゴールド製52万2200円、ピンクゴールド製51万3700円 アイテム:リング、同じデザインのH文字が1つのもの、H文字が1つ石なしのものがあり 地金種:ホワイトゴールド750 / 1000、ピンクゴールド750 / 1000 宝石種:ダイヤモンド サイズ:7号〜17号 リングの幅0.35cm ダイヤモンド44個 総カラット数0.08 ct
ギリシャ神話に登場するアリアドネが紡いだ糸、想いを繋ぐ糸からインスピレーションを得たリングです。 エルメスの歴史へと伝わっていきます。 *エルメス公式サイトより引用 基本価格: ホワイトゴールド製83万7100円、ピンクゴールド製78万9800円 アイテム:リング、同じデザインの石なしのものがあり 地金種:ホワイトゴールド750 / 1000、ピンクゴールド750 / 1000 宝石種:ダイヤモンド サイズ:6号〜16号 リングの幅0.38cm ダイヤモンド111個 総カラット数0.29 ct
ラグジュアリーな輝きを放つプラチナ、ゴールド製のものからカジュアルな雰囲気のシルバーやステンレススチールなど異素材を組み合わせたジュエリーの扱いまで、比較的手に取りやすい価格帯まで取り揃えていることは人気の秘密かもしれません。時を感じさせない美しさを持つエルメスのジュエリーは、一生ものとして長く愛用されています。 参照:以下、サイトより エルメス公式サイト Precious.jpサイト 家庭画報サイト GALLERY RAREサイト ALLUサイト
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英国宝石学協会 資格会員ディプロマ FGA
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依田 優子
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